日本を代表するバレエダンサーとコンテンポラリーダンサー、酒井はなさんと、井関佐和子さん。インタビュー前編では、普段劇場で確認するポイントの話から、ダンサーにとっての重要なツールであるシューズやソックスの話題がおおいに盛り上がりました。
インタビュー後編は、そんなお二人の出演する公演に、芸術家のくすり箱が平成29年度文化庁事業としてメディカルサポートで関わらせていただいたことについて、さらにお話をうかがいました。
■芸術家のくすり箱のメディカルサポートは?
──お二人それぞれの今年2月の公演には、当団体のメディカルサポートがつきましたがいかがでしたか?
井関:まず、トレーナーさんが常に劇場にいてくださるのはありがたいですね。あと私、触られたときに、もちろん相性もありますけど、その人がどれくらい真摯に向き合ってくれるかをすぐに感じてしまうんですよ。コンディショニングを仕事としてやっている人か、私の身体と向き合ってみようとされている人か。
その意味ではくすり箱のみなさん、すごかったんですよ、向き合い方が。そこが本当に気に入ってしまってちょこちょこトレーナールームにいきましたし、教えてもらったトレーニングは今も続けています。
酒井:私もやはり毎日トレーナーさんにいていただけたのは、すごく心強かったです。調子が悪いところがあっても、こまめにみてもらえるし、ちょっとした時間のケアでも「大丈夫」って送り出してもらえるのって、気持ちの面でも全然違うんですよ。本当にありがたかったです。身体をみてもらいつつ、メンタルまで支えてもらった感じです。
──海外のカンパニーで仕事を経験されると、日本のダンサーの活動環境の違いをいろいろ感じられると思いますが、日本でもあるといいなと思う仕組みなどはありますか?
井関:海外では毎日クラスレッスンをして、リハーサルして、午後は自分の時間がある、というリズムがよかったですね。今は、午後に自由な時間があるという日もあるんですが、メンバーも少ないので、全体を見るという意味でも基本的にはスタジオにいますね。
もし余裕があるならリハーサルが早く終われば早く帰って、トレーニングなり、映画を見にいくなり、何かすることのできる自分の時間があるといいですね。
──その点、酒井さんはバレエ団を退団後、フリーランスで活動されていますが、いかがですか。
酒井:フリーになって手帳を持つようになりました。そこに何でもたくさん書き込んでいます。カンパニーに所属しているときは、何も考えずカンパニーにいけばよかったんですけどね。朝はクラスがあって、その後リハーサルがあって、終わったら帰る。カンパニーに行けば、自分のスケジュールは確認できますから。
■休むことも仕事のうち
──舞台の日にちは重ならないようにできても、なかなかリハーサルの調整は大変ですよね。調整していくための決め事などは、ありますか?
酒井:休みはなるべく、きちんと作ろうとしています。例えばリハーサルが3件続くような日もあって、しかも、1件目はトウシューズを履かないもの、2件目は履くもの、3件目はまた履かないもの、とか、バレエやコンテ系など身体の使い方が全然違うものを1日のうちにやることもあるんです。
そういうのを全部コントロールしていくのはすごく大変なので、ちゃんと休む日を決めて、その日は何も入れないようにと心がけています。
──休む日をスケジューリングするんですね。
酒井:「何が起きても休み」と決めないと、つい予定を入れてしまうんですよね。休むということも1つの仕事のように思わないと。
──カンパニーのスケジュールは、どうされているんですか?
井関:そういう部分では、Noismはちゃんと1週間のシステムがあります。ツアーに出たりすると、スケジュールが変則になってくるんですけど、基本的には、休みは毎週月曜日と隔週で日曜日。先の予定が見えるというのは重要なことで、その1週間の持って行き方が考えられますよね。だから、私、休みに関してはすごくやかましいんです。
ツアーが終わったあとには、これだけ休みが必要で、そのかわりここはこう、と調整して。ただ長く休むだけだと身体がなまってしまうので、計画的に休ませるとか。制作スタッフや穣さんがスケジュール表を持ってきて、「佐和さん、休みはこれでいいですか」っていうくらい(笑)。
──重要な役割ですね。休日はどんなふうに過ごされるんですか?
酒井:何もしないように、できたらしたいですね。外にも出ない日を作れたらいいなと。
井関:それこそ私たちはルーティーンみたいになっていて、休みが月曜だけのときは朝ゆっくり起きて買い物して、家でご飯食べて、映画見て、くらいな感じと決まっているので、なんだか仕事と同じ感じですよね。特別なことをしない。たまに日・月休みで、ふたりとも特別大きなイベントが間近にないようなときは、ちょっと足を伸ばして温泉に行ったり。新潟は温泉が多いですからね。車でさっと行って帰ってこられるし。
酒井:いいですね。体があたたまるし、マッサージ効果もあるしね。
──食事面では何か気をつけていることはありますか?
酒井:なんだろう……お酒はちょっと控えたかな。
井関:私はグルテンフリーを実践しているので、東京にくると、もう楽しくて。東京はグルテンフリーの食材が何でもあるから。最初は踊りのためにグルテンフリーにしてみたんですけど、結構おいしいし、びっくりするくらい頭がすっきりして、もう2、3年くらい続いています。
酒井:それはきくよね。
井関:そう、本当に。やってみたらあまりにも効果が高すぎて、続けざるを得なかった、という感じですね。
酒井:きっと体の方がそっちを喜んだのね。
井関:食後に眠たくなったりしないし、公演後もどっと疲れることなくちゃんと元気。それが一番大きかったです。血糖値スパイク的な乱高下しないからかな。
■何歳まで踊るのか?
──最後に、お互いになにか聞いてみたいことはありますか?
井関:何歳まで踊りますか?
酒井:身体と相談しながら、できる限り長く踊りたいなと思っています。
全: (拍手)
酒井:佐和ちゃんはいかがでしょう?
井関:私は若い頃、踊りは30歳でやめると思っていたんです。でも、踊っていけばいくほど発見が多くて、いまは、ちょっとやめられないですね。
酒井:ね!
井関:年齢を重ねることでできる表現とともに踊ってみたいなって。それならやめる必要がないし、はなちゃんや、(下村)由理恵さんみたいに素晴らしい先輩がいるから、やめるとは言えないんですよ。
酒井:そうそう、由理恵さんすごいです。本当に。「40代が一番いいんだから! 脂が乗って一番いいとき」って、実際に素晴らしい踊りをされるあの由理恵さんに言われたら、はい、としか答えようがない(笑)。
井関:(笑)。でもなんとなくイメージはわく。
酒井:身体と精神と、いろんなバランスがとれてきて、人間的にも豊かになって、表現者としてすごくいい時期だって聞いて、「そうだ、そうだ」って。ということは、身体が元気じゃないと、せっかくの表現ができないわけで。
井関:だから、ヘルスケアの面では、助けていただくしかないので、私たち。
酒井:助けを求めてインタビューを終わるっていう(笑)。
──そういうものの必要性を知らない方も多いので、お二人のインタビューを通じて、私たちもダンサーのヘルスケアの大切さを伝えていきたいと思います。ありがとうございました。
(了)
実はこのインタビューには、酒井はなさんのご主人で、以前Noismでも踊られていた島地保武さんが同席してくださり、酒井さんのコメントに助け舟を出したり、話を盛り上げてくださったりしました。ザ・フォーサイス・カンパニー(独)でも長く活躍された島地さんのエッセンスによって、酒井さんのさらなる魅力を引き出される様子が伝わってきました!
●2013年におふたりが結成されたユニットAltneuの公演情報はこちら
www.altneu.jp/
酒井はな(さかい・はな) バレエダンサー/ダンス・ユニット Altneu
5才よりバレエを始め、畑佐俊明に師事。1988年橘バレヱ学校に入学、牧阿佐美、三谷恭三に師事。93年牧阿佐美バレヱ団入団、18才で『くるみ割り人形』主役デビュー。97年開場とともに新国立劇場開場バレエ団に移り、柿落とし公演『眠れる森の美女』にて森下洋子、吉田都と競演。以降同団プリンシパルとして数々の初演を含む主演を務める。優れた表現力と高い技術に品格の備わった、日本を代表するバレエダンサーのひとり。クラシックバレエを中心にコンテンポラリーダンスやミュージカルにも出演。2013年島地保武と共にダンス・ユニットAltneu<アルトノイ>を立ち上げ。レパートリーは古典バレエからN・デュアト、M・ゲッケ、C・シュクップ等の現代作品まで幅広い。2009年芸術選奨文部科学大臣賞、15年第35回ニムラ舞踊賞、17年紫綬褒章、18年第39回橘秋子賞特別賞ほか受賞歴多数。
【公演情報】
ナチュラルダンステアトル ・ステージアーツ2018『ねむり姫』(演出:中村しんじ 振付:川野眞子)
[日時]2018年7月31日(火)19:00~
[会場]渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
[詳細]http://natural-dance.com
井関佐和子(いせき・さわこ) 舞踊家/Noism副芸術監督
1978年高知県生まれ。3歳よりクラシックバレエを一の宮咲子に師事。16歳で渡欧。スイス・チューリッヒ国立バレエ学校を経て、ルードラ・ベジャール・ローザンヌにてモーリス・ベジャールらに師事。99年ネザーランド・ダンス・シアターⅡ(オランダ)に入団、イリ・キリアン、オハッド・ナハリン、ポール・ライトフット等の作品を踊る。2001年クルベルグ・バレエ(スウェーデン)に移籍、マッツ・エック、ヨハン・インガー等の作品を踊る。04年Noism結成メンバーとなり、金森穣作品においては常に主要なパートを務め、現在日本を代表する舞踊家のひとりとして、各方面から高い評価と注目を集めている。08年よりバレエミストレス、10年よりNoism副芸術監督も務める。 (ポートレート撮影:松崎典樹)
●Twitter @sawakoiseki
●Instagram sawakoiseki
【公演情報】
Noism1×SPAC 劇的舞踊vol.4『ROMEO&JULIETS』
◆新潟公演
[日時]2018年7月6日(金)19:00/7日(土)17:00/8(日)19:00
[会場]りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
◆富山公演
[日時]2018年7月14日(土)17:00
[会場]オーバード・ホール
◆静岡公演
[日時]2018年7月21日(土)17:00/22日(日)15:00
[会場]静岡芸術劇場
◆埼玉公演
[日時]日時:2018年9月14日(金)19:00/15日(土)17:00/ 16(日)15:00
[会場]彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉
■芸術家のくすり箱 メディカルサポート※実施公演
※文化庁委託事業「平成29年度戦略的芸術文化創造推進事業―文化力プロジェクト-ヘルスケアサポート基盤整備事業」の一環で実施しました。
●酒井はなさん出演公演
「ARCHITANZ 2018」(2018.2.17-18 @新国立劇場)
●井関佐和子さん出演公演
Noism1『NINA−物質化する生け贄』『The Dream of the Swan』(2018.2.17-18 @彩の国さいたま芸術劇場)
制作:NPO法人芸術家のくすり箱 インタビュー撮影:Tatsuya Yokota [2018.7作成]